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管弦楽におけるトロンボーンの使用本数

今日の午前中は、A.グートの金管10重奏曲『3つのバガテル』の練習でした。わんわん響く部屋で、曲も派手なので、何をやっているのか把握しづらい箇所が多くありました。危ない危ない…それにしても、トップのY川(Trp)はさっぱりバテないので、やはりサイボーグに違いないと思います(かなりきつい曲なのです)。

さて、大仰な表題をつけてしまいましたが、オーケストラのトロンボーンといえば、だいたい「3本1組」が一般的です。3本だと、基本的な3和音が作れてバランスがよいからだと思います。交響曲も管弦楽曲も、トロンボーンが用いられているほとんどの作品は、3本です。ロマン派以降の曲になると、これにテューバが1本(『春の祭典』や『アルプス交響曲』では2本ですが…)加わることもあります。テューバの用法については門外漢なのでここでは言及しませんが、時々、トロンボーンを3本使わない曲に出会います。その理由を考えながらスコアを眺めるのも、私にとって鑑賞の楽しみの1つです。

音楽史的に見ると、トロンボーンは半音階(オクターヴに含まれる12音すべて)が演奏可能であったため、早くから宗教音楽や歌劇などでは活躍していたようですが、トロンボーンを交響曲に初めて使用したのは、よく知られているように、ベートーヴェンです。交響曲第5番、第6番、第9番に使用しています。第5番と第9番には、「アルト・テナー・バス」の指示があります。この表記は後のドイツ・オーストリアの作曲家の曲に長いこと受け継がれました(シューマン、メンデルスゾーンからブラームス、ブルックナーに至るまで)。現代のオーケストラでは、「アルト」のパートを本当にアルトトロンボーンで演奏するのは、モーツァルト、ベートーヴェン、シューマン(曲によりますが)、メンデルスゾーンくらいなもので、ブラームスやブルックナーをアルトで演奏した、という話は滅多に聞きません。昔、プロの先生(誰だかは忘れてしまいました)が、ブルックナーの交響曲第7番をやったとき、外国人の指揮者に、本番直前に「アルトを使いなさい」と言われ、必死になって練習して本番を乗りきった、という話は聞いたことがありますが。

話がそれましたが、ベートーヴェンの曲でも、トロンボーンをアルト・テナーの2本しか使っていないものがあります。歌劇『フィデリオ』の序曲と、交響曲第6番「田園」です。なぜバスを使わないのかな?と考えたのですが、スコアを見たところ、ほとんどがアルト・テナーのユニゾンであり、和音を作ることはしていません。あえてバスを加えて補強する必要もなかったのでしょうか。また、ベートーヴェンはトロンボーンの使用には慎重だった(実験的に使っていた)というのもあるのかもしれません。何しろ交響曲に初めて使った、いわば先駆者なのです。実際、その後の交響曲第7番、第8番にはトロンボーンは用いていません。第5番に用いたピッコロやコントラファゴットも姿を消し、きわめてオーソドックスな2管編成です(それなのに第7番があんなに「鳴る」曲だという事実には、感嘆せずにはいられません)。そして第9番でトロンボーンを再び用いたのは、合唱が入っているからではないかと私は考えています。宗教音楽では、トロンボーンは合唱の補強として使われることが多かったからです。ブルックナーの数多くの宗教曲(モテットなど)でその名残が聞けます。

ところで、当時、葬儀の時には「エクヴァーレ」というトロンボーンの重奏曲が演奏されるという伝統があり、ベートーヴェンは、トロンボーン4重奏による3つのエクヴァーレを書いています。これは実際に、彼の葬儀で演奏されたそうです。ブルックナーも2つのエクヴァーレを書いていますが、これはトロンボーン3重奏です。

ベートーヴェン以降、ロマン派の時代になると、トロンボーンが使われる曲も次第に増えていきますが、「田園」のように、なぜか3本使わない曲もあります。ここでは私の知っている範囲ですが、その例を挙げてみましょう。

♪トロンボーン1本

これはおそらく完全な「ソロ楽器」として使われることを目的としたものだと考えられます。近現代の曲に多く見られます。ヒンデミットの『白鳥の肉を焼く男』、ストラヴィンスキーの『プルチネルラ』、プーランクの『田園のコンセール』、ラヴェルの『ピアノ協奏曲』、ミヨーの『屋根の上の牛』、ヴェーベルン編曲によるバッハの『6声のリチェルカーレ』など。また、ロッシーニの『泥棒かささぎ』序曲、ウェーバーの『ピアノのための小協奏曲』は、なぜか「バストロンボーン1本」です。R.シュトラウスの組曲『町人貴族』もトロンボーン1本ですが、音域が非常に低く、しかしスコアには「トロンボーン」としか書かれておらず、テナーで演奏するのかバスで演奏するのかは意見が分かれるようです(下のHの音はテナーでは出せないので、やはりバスなのでしょうか?)。

♪トロンボーン2本

ロマン派、国民楽派の曲ではあまり見受けられませんが、20世紀になると増えます。バルトークの『舞踏組曲』、ヒンデミットの『シンフォニア・セレーナ』などです。これらの曲では、テナートロンボーン2本にテューバが1本加わることによって、バストロンボーンの役割をテューバが果たしているものと考えられます。バストロ吹きとしては、使ってもらえなくて何となく寂しい感じがします。

♪トロンボーン4本

オペラにはよくある編成のようです。ワーグナー、プッチーニなど。この場合の4番パートは、だいたいF管のバストロンボーン(これが現代では「コントラバストロンボーン」と呼ばれている)です。数年前にプッチーニの『トスカ』を吹かせていただく機会があったのですが、その時は、テナー2、バス1(私)、コントラバス1でした。その時のコントラバストロンボーンは私の尊敬するS根さんで、『トスカ』の冒頭はトロンボーンの下2人の強烈なB♭音のユニゾンで始まるのですが、S根さんは私の3倍くらい吹いていらっしゃいました。また、交響曲の分野ではマーラーの交響曲第1番(ただし4番パートはホルンの補強でほとんど出番がない)、第2番、第3番、第6番、第8番、R.シュトラウスの『アルプス交響曲』などで4本使っています。これらの曲では、特に4番目のパートをコントラバスで吹いたりはしないようです。マーラーの6番をやった時は普通のバストロンボーンで4番パートを吹きましたし、かつて『アルプス交響曲』の3番パートを代奏したことがあるのですが、その時隣りの4番パートの方は普通のバストロンボーンでした。そういえば、ベルクの『3つの管弦楽曲』もトロンボーンを4本使用しますが、1番パートには珍しく「アルト」を指定しています。かつてT大オケでやった時、大先輩S田さんがこのパートを吹かれたそうです。

♪トロンボーン5本以上

となると、なかなか思いつかないのですが、シェーンベルクの『グレの歌』くらいでしょうか。トロンボーンは確か6本必要だったような…記憶があやふやなのでわかりません。

以上、間違いなどがあったらコメントを下さると助かります。ところで、現代では「トロンボーン4重奏曲」がかなり多く書かれ、「●●トロンボーンカルテット」という団体もプロ・アマ問わず数多くありますが、なぜオーケストラでは「3重奏」の組み合わせがほとんどなのに、「4重奏」曲の方が多く書かれているのでしょうか?そもそも「トロンボーン4重奏」というジャンルが定着したのはいつのことなのでしょうか?このあたりの興味は尽きません。

まあ、何で急にこんなことを書いたのかというと、今日、図書館でベルクのヴァイオリン協奏曲のスコアを借りて見てみたら、トロンボーンは2本で、何と「1.Tenor 2.Bass」と書いてあり(上述のように、2本の場合だいたいバスは使用されない)、自分の存在が認められたようで非常に嬉しくなり、すごくこの曲がやってみたくなったというだけの話なのでした。

ベルクの曲は、ヴェーベルンやシェーンベルクよりも少し親しみやすいかなと思います。
by mako_verdad | 2005-01-23 22:09 | 鑑賞活動 | Comments(0)

1979年生まれ。某国立大学オケへの入団を機にバストロンボーンを始めました。現在はアマチュアオーケストラ「ザ・シンフォニカ」やいくつかのブラスアンサンブル団体で活動しています。2017年に子供が生まれたので徐々に活動縮小予定です。