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私は音楽のどの部分に感動を覚えるのか

書くのを忘れていましたが、この8月に、ある人(音大を目指す高校生)との出会いがきっかけで、音楽療法についての本を5冊読みました。全く知らないジャンルだったのですが、いきなり専門的な理論書まで読んでしまい、ところどころちんぷんかんぷんでした。しかし、この体験は私に多くの貴重な情報をもたらしてくれました。

音楽による精神的疾患の治療はかなり昔からあったこと、現在は日本でも音楽療法士の国家資格化が検討されつつあること、今後医療の多くの現場で音楽療法が用いられていくであろうということ、など。

さて、この過程で私はある疑問を持ちました。受動的音楽療法(主に音楽鑑賞ですね)に最も多く用いられるのはクラシック音楽だそうですが、死を前にした患者に対しては、その人が若い頃に好きだった曲もよく使われるそうです。現在の70~80代の方には戦争経験者が多く、その当時に流行した歌謡曲、学校で習った唱歌、戦意高揚の軍歌などが有効なのだそうです。読んだ本の一節には「このように、ゆったりしたメロディで心が落ち着き、過去の楽しい思い出を喚起させるものがよい(軍歌はまた別でしょうけど)」と書かれていました。

それでは、現在の子どもたちが70年、80年後に死を迎えるとしたら、果たして現在子どもたちの間で流行している曲の多くは音楽療法として有効と言えるのだろうか、と思ってしまいました。この疑問は、「人は音楽のどの部分に心を動かされているのだろう」という問いにもつながり得ると思います。もちろん人それぞれに違うのでしょうが…

翻って自分にこの問いかけをしてみると、私の好きな音楽、感動する音楽はルネサンスから現代まで多岐にわたっています。悪く言えば無節操です。その音楽に本当に感動しているのか?というツッコミが入りそうです。

さて、ここで「不協和音」ということについて考えてみたいと思います。音楽は、時代とともにホモフォニーからポリフォニーへと移り変わっていき、協和音と不協和音という概念が現れました。そして、「不協和音」はより多様化したものになっていきます(昔は「属七」でも不協和音だったそうです)。機能和声の崩壊にしたがって、和声のルールも崩されていきます。やがて12音技法が登場し、第2次大戦後の「現代音楽が一般人からそっぽを向かれる時代」になり、今に至っているというのがまあ一般的な説明でしょう。

不協和音も、協和音への解決に至る「緊張」の部分として聞かれるならば、聞くものにとってそれほど違和感はないでしょう。例えばベートーヴェンの有名な第5交響曲は、ひたすら属七の和音が続いた後に圧倒的な主和音のフィナーレになだれ込みます。「交響曲史上最も明るいフィナーレ」と言われる所以でしょう。同じベートーヴェンの「第九」の終楽章冒頭なども、当時としてはとんでもない不協和音だったのではないでしょうか。AとB♭を半音でぶつけてオーケストラに強奏させるのですから。いずれにせよ、これらは非常に上手い使い方だと思います。

それでは不協和音が不協和音のまま解決しない音楽はどうでしょう。例えばメシアン晩年の大作、『彼方の閃光』の第1曲、「栄光に包まれたキリストの出現」。ひたすら管楽器のコラールですが、そのほとんどが不協和音です。最後の音もホ長調にたくさんの音をぶつけています。メシアンの音楽は、一般的にはそれほど人気があるとは言えないでしょうが、私の耳にはこれが非常に感動的に聞こえます。武満徹の音楽も然りです。夏に、実家の自分の部屋で懐かしい景色を見ながら聞いた数々の曲が私にもたらしたのは、「感動」以外の何ものでもありませんでした。

しかしその一方で、同じように不協和音ばかり使っているもので(場合によっては4分音)全く理解できない曲も数多くあります。例えば、私はシェーンベルクやヴェーベルン、リゲティ、ベリオ、ケージ、ブーレーズ、シュトックハウゼン、ノーノなどの曲は、一部を除いてほとんど理解できません。

先月のFireworksの合宿で、私が持っていった新曲の多くは「現代曲」と評され、「よくわからない」「もっと楽しい曲がやりたい」という声が多く聞かれました。確かにわけのわからないものもありましたが、私がたまに「この曲いいですね」というと、決まって「??」という反応しか返ってきませんでした。翌日の昼食時に、「Y堕君の頭の中ってどうなってるの?」とえび先生に聞かれる始末でした(えび先生は不協和音が苦手なようです)。「ああいう曲(私がいいなと思った曲)を聞くと精神が高揚してくる」と答えたら、えび先生と隣のmihaさんはますます怪訝な表情をしてしまいました。

私はいったい音楽のどこに感動を覚えているのでしょう?
自分という人間がますますわからなくなってきている今日この頃です。

文がややおかしいのは風邪のせいということでご了承ください。明日でひきはじめてから1週間。今週末の連休は練習が7コマあるので、治ってくれないとやっかいなのですが…今、ミュートをつけて楽器を吹こうとしても、咳が止まらなくてまともに吹けません。困りましたね。
by mako_verdad | 2005-10-05 22:02 | 鑑賞活動

1979年生まれ。某国立大学オケへの入団を機にバストロンボーンを始めました。現在はアマチュアオーケストラ「ザ・シンフォニカ」やいくつかのブラスアンサンブル団体で活動しています。2017年に子供が生まれたので徐々に活動縮小予定です。


by makorim