先日、オケの選曲で久々にコダーイの名前を見かけたので、「ハーリ・ヤーノシュ」組曲をスコア片手に聞いてみた。なお、選曲に出たのはハーリ・ヤーノシュではない。
ハーリ・ヤーノシュの組曲は、高校2年生の時に吹奏楽版で全曲演奏したので懐かしい。5楽章のツィンバロンは、のちにプロになった打楽器の先輩がマリンバで代用していた。当時はユーフォニアムを吹いていたのでそれほど気に留めなかったが、実はこの曲のトロンボーンパートはとても難しい。バストロンボーンはオーケストラスタディにもよく出てくるパッセージがあるが、スコアをよく見ると、コダーイはこの曲のトロンボーンパートにどのようなトロンボーンを想定していたのかという疑問が生じる。もちろん、前述のパッセージでグリッサンドが多用されているから普通のスライドトロンボーンだろうと言われてしまえばそれまでだが、1926年に4幕のジングシュピールとして全曲が初演された当時のハンガリー王立歌劇場ではスライドトロンボーンが使用されていたのだろうか。
故・佐伯茂樹氏の著書で読んだことがあるが、かつてオーストリア=ハンガリー二重帝国(ハプスブルク帝国)の支配下にあったチェコや北イタリアでは、20世紀前半のある時代まではウィーンで開発されたヴァルヴトロンボーンを使用していたそうだ(「本家」のウィーンフィルでは1880年代に使用をやめてしまったらしいが)。確かに、ヴェルディやヤナーチェクの曲では明らかにヴァルヴトロンボーンを想定したパッセージがある。自分もマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」、レオンカヴァッロの「道化師」などイタリアオペラをいくつかやったことがあるが、スライドでは演奏が難しいパッセージがあったと記憶している。コダーイの母国ハンガリーはもちろんオーストリア=ハンガリー二重帝国だったわけで、ウィーンの影響も大きかったことであろう。
もしかすると初演の時はヴァルヴトロンボーンで演奏され、後の組曲版初演(ニューヨークフィルだったらしい)の際には現代と同じようにスライドトロンボーンで演奏されたのだろうか…など、色々と素人の妄想がはかどるのであった。
ハーリ・ヤーノシュのいくつかの譜例。
①第4曲前半。1stと2ndはここは全音トリルなのでスライドトロンボーンのリップトリルでも演奏可能だが、バストロンボーンは半音トリルなのである。もちろん、F管のバストロンボーンだとして第4ポジションのDを起点にすれば第11倍音と第12倍音が半音の関係だから、理論上は可能か?
→追記 そもそも私の理解が間違っていてこれは全音トリルだったようだ。素人がヘタなこと書いちゃいけませんな。ただのトリルだとAs-H、フラットがつくとAs-Bということらしい。
②同じく第4曲、有名な箇所。オクターブ下で同じことをやっているチューバがスライドではないので、トロンボーンも必ずしもスライドではないのでは?というのが佐伯氏の見解だったと思う(「グリッサンド」と書いてある楽譜にも解釈がいろいろあるだろうということ)。
③第4曲の最後の部分。確かに現代のスライドトロンボーンで演奏すると実に物悲しく、落ちぶれたような感じが出て説得力があるとは思う。
④第6曲の盛り上がる箇所。オプションで書かれた16分音符があってもなくても、果たしてこれはスライドトロンボーンを想定しているのだろうか?
もちろん、現代のバストロンボーンの名手にかかればスライドで難なく吹けるのだろう。どのCDを聞いてもプロの人は凄いなあと思う。
特にオチなく終わり。